2甲南町

滋賀の薬業史より〜忍術屋敷

■ 忍術屋敷で知られる望月家(竜法師)

 甲南町竜法師の近江製剤株式会社の社屋は「忍術屋敷」として有名である。甲賀の望月家は、室町時代からの由緒をこの地に伝える名族で、忍術屋敷は望月本実の居宅と伝えている。外見はかや葺きの平屋であるが、内部は三層でさまざまなからくりが施されている。約二百五十年前の建物であるが、そこにしくまれた主要なからくりは次のようなものである。

(1)外見は平屋であるが中二階、屋根裏部屋の三層からなっている。
(2)階下奥座敷などの襖は、厚さ約三センチの板に紙を貼りつけたも
   のである。
(3)木製の格子のように見えるのは、すべて鉄格子に木を覆ってカム
   フラージュしている。
(4)網戸には取手がなく、「舌」がかくされていて締めると容易に開か
   ないが、名刺様のもので「舌」を上げると開くしかけになっている。
(5)押入れの床下に井戸がある。また横穴があって近くの民家に通じ
   ている。
(6)土蔵には二つの入口があり、両方の扉が同時に開閉できるしかけ
   がある。
(7)中二階の格子は左右に操作することによって容易にはずれ、階下
   に飛びおりることができる。しかしこのことを知らない者は天井の低
   い中二階に閉じこめられる。
(8)表と裏の間をつなぐ通路(押入れ)の一部に、いわゆる「どんでんが
   えし」の扉を設けている。

忍術屋敷で知られる望月家

■ 第二の忍術屋敷「東雲舎」(磯尾)

 甲南町磯尾の小山忠彦氏宅の離れ座敷「東雲舎」は第二の忍術屋敷といわれている。下図のような構造をもつが、外見は平屋建、かわら葺き、建坪八十平方米余りの建物で、中二階が秘密の部屋になっている。約二百年前の建物といわれ、五代前の快玄氏が残したものである。主なからくりは、

(1)玄関右手の下駄箱から十畳の間の床下に通ずる。
(2)十畳の間の廊下から物入れに入ると、奥の壁にしかけがあり裏庭
   に出られる。
(3)秘密の中二階へは、四畳半の間から「かくしばしご」で上る方法と、
   戸だなの天井から上る方法との二つがある。
(4)中二階の東側の丸まどから屋根へ出ると屋根から繩ばしごで裏庭
   におりる金具がとりつけられている。

などである。

「東雲舎」間取り図

 望月本実家も、小出忠彦家も、とくに古くから配札と施薬を行なってきた家である。なお、甲賀の望月家には「甲賀三郎」譚の主人公として名高い兼家の子孫を称する者がある。このことに関しては、立命館大学教授福田晃氏が甲賀を訪ねられ、くわしい研究を発表されている。また忍者としての望月家に関しては「甲賀郡史」に資料が出ている。

 
 

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